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ある猫の思い出 - 22 -

新顔「ミケ」の顔見世興行から幾ばくかの時が流れた頃、
ある事情で私は家を離れることになった。

新たな生活の場へ持っていく物、このまま残していく物
あらかたの整理が終わり、妙に隙間が目立つ部屋の真ん中で煙草に火を点ける。

たなびく紫煙をぼんやりと目で追いかける。
徐々に色を失いながら紫煙は庭のサッシに向かって伸びていき、
曇りガラスに映るカフェオレ色の存在を私に知らせる。

だが、どうもおかしい。
いつもなら「ニャア、ニャア」と盛大な雄叫び ( 彼女にとっては挨拶かもしれないが )
を上げた後、速攻で部屋に突入してくるのにその気配がない。
とりあえずサッシを開ける。
すると、お行儀良くお坐りしたおにゃあが私を見上げて「ニャア」
「入る?」と聞くと「ニャア」と答えて部屋に上がってくる。
べつだん変わったところはないようだ。

おにゃあが落ち着きやすいように足を伸ばして座る。
すぐさま彼女が腿の上に乗ってくる。
そしていつもの「撫でて撫でて」の御要求が始ま・・・らない。

なんだか物問いたげな表情で私を見上げている。
「どうしたの?」と問うと、ふっと目を伏せる。

頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。
が、すぐに目を開け、撫でる私の手を脚で押さえて私の指や手の甲を妙に熱心に舐める。
そしてまた物問いたげな表情で私を見つめる。

やがておにゃあは私の胸をよじ登り、顔をチロチロ舐め始める。
「どうしちゃったのさ?」
再び問いかける。
今度は目を伏せることはせず私をじっと見つめる。
その青い瞳の中に仄かに見え隠れしている思いらしきものはなんだろう?
掴めそうで掴めない。
もどかしさを覚えながら私も彼女をただじっと見つめる。

どのくらいの時間そうしていただろう?
彼女はそっと膝の上に降り、くたりと伸びて眠り始める。
その背中を優しく撫でているうちにいつしか私も眠りに引き込まれ・・・

ふっと目を覚ます。
すっかり日は暮れ、部屋の内も外も夜の空気が満ちている。
周囲を見回すがおにゃあの姿はない。

そして週末、私は家を離れた。

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